葉山通信
2009年4月・記

 先日、友人とお互いに田舎自慢をしていたら、なんだかとても九州が懐かしくなりました。私が生まれたのは熊本の山里で、春には桜の花びらで家の前が白いじゅうたんを敷きつめたようになり、夏には庭先をホタルが飛び交い、満天の星空にくっきりと天の川が浮かぶという本当に空気も水も澄みきった美しい所で育ちました。それがあたりまえのように豊かで幸せな子供時代を過ごした私はやっぱり自然が大好きで、大変なお仕事をしていてもフト目をあげて窓の外に花々や木々や山々の緑が見えると、ほっと心が和んでまた次の作品への新たな意欲が湧いてくるのです。
 正直言って「モスクワ編」を描くのは私にとって大きなチャレンジです。
 “今さら……”といったような批判めいた声がきこえてくる事もあります。
 確かに絵も変わってしまったし、私自身あの頃の真澄やレオンを描けるだろうか、読者の心に今も生きているあの当時のままの彼らを表現できるだろうかという不安が無いわけではありません。
 でも私はやはり一人でも楽しみにして下さる読者の方がいればその声に応えたいと思います。
 本当に永い間変わらず応援して下さる読者の皆様にお返し出来るのは、良い作品を描く事であり、その作品を通じて読者と深いコミュニケーションが出来ると信じているからです。
 そしてなによりも私自身が今、描きたい!と思っています。
 子供時代の夢を叶えた20代に、全霊をそそいで描いた“同志”のような懐かしい彼らをもう一度、描かせてもらえるチャンスに恵まれた事に心から感謝しています。
 そしてその後、「まいあ」の連載を始めた時に決心した、「まいあ」をSWANの続編としてではなく、新しいバレエ漫画として、今の自分に向き合いながら描いていこう、という気持ちに立ち帰りたいと思うのです。
 人は成長し変化します。誰一人として同じ所にとどまる事は出来ません。私もまた作品を通じて変化し続けている自分を正直に表現しています。
 今現在の私の作品を受け入れ読んで下さる皆さんにあらためて感謝の気持ちを伝えたいと思います。

平凡社のトップページへ | プライバシーポリシー | オンラインショップご注文方法